卵巣癌の前臨床評価の同系モデル

著者:Maryland Franklin 博士 | サイエンティフィック・ディベロップメント部門バイスプレジデント
Date: September 2018


卵巣癌は比較的まれな婦人科悪性腫瘍ですが、初期症状にこれと言った特徴がないため、もっとも致死率の高い癌のひとつでもあります。その結果診断された時点でほとんどが進行期ステージ疾患となっています。米国では卵巣癌と診断されるケースは毎年約22,000件で、そのうち死亡例は14,000件報告されています。

癌治療や外科学的アプローチに関しては数多くの進歩があったものの、卵巣癌治療の患者集団に対する意義深い、インパクトのある進歩はあまり見られていません。初期奏功率は良くても、第一選択治療後に 80%の患者再発が見られ、50%以上が診断後5 年以内に亡くなります。

第1ラインの難治性患者に対する二次選択治療が限られていることと、診断されたときにはすでに後期ステージであることが全体的な生存率の低さの理由となっており、このオンコロジー医薬品開発の焦点となっている医療的ニーズは満たされていないと言えます。しかし、他の癌での免疫療法による最近の成功が卵巣癌患にいくつかの希望をもたらしています。報告されたデータの中で最も希望が持てるものに、腫瘍浸潤リンパ球の存在、全体的な卵巣癌患者の生存率向上に関連していることが報告されています[1]

前臨床同系モデルとして使用するための ID8マウス卵巣癌モデル

At Labcorp we have established the ID8 murine ovarian carcinoma model as a preclinical syngeneic model that can be used to track and monitor disease progression and therapeutic outcomes. このモデルは、ルシフェラーゼを発現する ID8 細胞の腹腔内送達に依存して、ヒトの疾患の諸相を模倣しています。in vivo移植後、 ID8-luc 細胞は7-8 日という腫瘍倍加期間を記録し、全体的な平均生存率は約40-50 日間でした。このモデルでは、時間が経っても体重の減少は見られませんでした。しかしながら、進行後期になってくると腹水が蓄積するため、体重の増加は一般的です(図表1 A, B, C)。

図表1: C67BL/6マウスにおける、ID8-luc モデルの In Vivo 経時的評価

図表1A; IP 移植後の対照群マウスにおける腫瘍負荷の図画的描写 図表1B: 移植日後(第0日)から毎週3回体重を測定し、その変化をパーセンテージでまとめたもの

図表1A; IP 移植後の対照群マウスにおける腫瘍負荷の図画的描写
図表1B: 移植日後(第0日)から毎週3回体重を測定し、その変化をパーセンテージでまとめたもの

図表1C: 時間の経過と共に追ったコントロールマウスの代表生物発光イメージ

図表1C: 時間の経過と共に追ったコントロールマウスの代表生物発光イメージ

腹水の免疫表現的評価

臨床的観察例では、疾患が進行ステージに達すると、腹水の蓄積による腹部の膨張が見られました。解剖の結果、腹膜腔内、膵臓や肝臓、脾臓および腹壁などに充実性腫瘍結節が見られました。

同系モデルの免疫細胞プロフィールを理解することはモデル選択において重要な要素となります。したがって当社は腹水の免疫表現型を評価し(図表2A,B,C)、大量のB細胞、顆粒球骨髄性抑制性細胞(G-MDSCs)、そしてM1とM2腫瘍関連マクロファージ細胞(TAM)の両方を発見しました。 観察された充実性腫瘍結節の更なる評価が追求されています。

図表2: ID8-luc をインプラントしたマウスの腹水の免疫表現型検査

図表2A: ここに示したドーナツグラフは、全体のCD45+ 集団に対する免疫細胞集団の配分パーセンテージを示しています。  図表2B: T細胞集団に関する分析 図表2C: 悪性腫瘍細胞集団の分析 n=5個別マウスの腹水サンプルの研究経過 

図表2A: ここに示したドーナツグラフは、全体のCD45+ 集団に対する免疫細胞集団の配分パーセンテージを示しています。 
図表2B: T細胞集団に関する分析
図表2C: 悪性腫瘍細胞集団の分析 n=5個別マウスの腹水サンプルの研究経過 

モデルが免疫チェックポイント阻害剤に応答しているかを見極めるため、当社は腫瘍細胞の移植後7ないし14日後の抗mpd-1、抗mpd-l1、そして抗mctla-4抗体をテストしました。  他の多くの充実性同系腫瘍モデルと同様、これらの治療への応答は、治療開始のタイミングによって大きく変化することが発見されました。図表3Aと3B では、腫瘍細胞の移植後7日の抗mPD-1 または抗mPD-L1を治療の開始時に用いたところ、腫瘍の完全回帰が見られ、この病期が薬物併用療法に不向きであることが判りました。対象的に、このモデルは抗mCTLA-4治療法に抵抗力があるようでした。  さらに、対照腫瘍の一部は研究が7日目に開始されると自然退縮することも発見されました。

図表3: 腹腔内のID8-luc: 時間の経過で追った平均および個別の全身BLI信号

図表3A: (左)平均データ (右)研究における個別のマウスの、時間の経過の中での毎秒の光子読み出し 個々のグループはn=10
図表3A: (左)平均データ (右)研究における個別のマウスの、時間の経過の中での毎秒の光子読み出し 個々のグループはn=10
図表3B: 各グループを時間経過とともに追った生物発光画像
図表3B: 各グループを時間経過とともに追った生物発光画像

追跡研究では、治療の開始を腫瘍細胞の移植後14日目まで遅らせると対照腫瘍の自然退縮は見られなくなりました。さらに抗mPD-1 あるいは抗mPD-L1療法に対しては、全体の応答率に変化が見られました。しかしながらこれらの抗体が治療法に対して引き起こす応答はオールオアナッシングであるようです。加えて、抗体の投与を10mg/kg から 5mg/kg に減らしても、抗腫瘍またはこれらの薬物の活性には大きな影響が見られませんでした(図表4)。将来の研究ではさらに抗体の投与を遅らせて、これらのチェックポイント阻害剤の単剤薬物活性を一層減らすことができるかを検証します。

図表4: 腹腔内のID8-luc: チェックポイント阻害剤抗体による治療後の平均および個別の全身BLI信号

表 1:肺癌細胞株

A549 の増殖曲線はこちらをご覧ください:

A549:ヒト肺癌

Labcorp has multiple lung cancer cell lines available for use (Table 1). Please contact us to run your next lung cancer study.

図表4: 腹腔内のID8-luc: チェックポイント阻害剤抗体による治療後の平均および個別の全身BLI信号

生命工学、医薬品コミュニティー内では、卵巣癌の治療薬開発および発見は非常に活発な分野となっています。
 
 

参照

[1]Zhang L, Conejo-Garcia JR, Katsaros D, Gimotty PA, Massobrio M, Regnani G, Makrigiannakis A, Gray H, Schlienger K, Liebman MN, Rubin SC, Coukos G. Intratumoral T cells, recurrence, and survival in epithelial ovarian cancer. N Engl J Med 2003 Jan 16;348(3):203-13. PMID: 12529460 (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12529460)

注:すべての動物管理および使用は、AAALAC 認定を取得した施設にて IACUC 手順の審査および承認を経て動物倫理規制に従い行われました。

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