PyMT - 乳癌の移植可能マウスモデル

執筆者: Erin Trachet | 科学開発部 ディレクター 
Date: September 2019


乳癌は、引き続き世界中の女性の間で最も繁殖力が強く生命を脅かす疾患となっています。アメリカ癌協会によると、2017年に米国の女性の間で約253,000件の新規浸潤癌ケースが報告され、そのうち41,000 人が死亡しています。(1)新規乳癌のケースのうち、およそ6-10%(15,000-25,000人)が転移性(ステージⅣ)と診断されます。しかしながら、すべての乳癌のうち20-30%が時間の経過とともに転移性になると考えられています。(1)

動物モデルは癌の発生と進行を解析するのに強力なツールとなり得ます。一例として、遺伝子導入ポリオーマ中型T抗原腫瘍性タンパク質(以下PyMT)モデルがあります。PyMTモデルの発現はMMTVプロモータもしくはエンハンサによって乳腺に限られており、その結果として、マウスには前癌状態から悪性までの4つの明確な腫瘍進行ステージが見られます。これらのステージはヒト乳癌のそれと類似しています。ヒト乳癌との形態学的な類似点に加えて、MMTV-PyMT起因性腫瘍におけるバイオマーカーの発現がヒトの転帰の不良な一致しています。これにはエストロゲン、プロゲステロン受容体の損失、そして悪性ステージに進行するにつれて発生するMMTV-PyMT腫瘍内のErbB2/Neu (Her2)とcyclinD1 の執拗な発現(2)が含まれます。

Given the desperate need, and the uniqueness of the MMTV-PyMT model, Labcorp has developed and optimized a transplantable version of this model that’s derived from transgenic host mice (FVB/N-Tg(MMTV-PyVT)634Mul/J).

原発乳腺脂肪体腫瘍の増殖

移植可能な MMTV-PyMT (PyMT)モデルのための同所性原発腫瘍増殖キネティクスが図表1に示されています。平均倍加時間は~8日で、腫瘍の容積の堅実な増加が見られた反面、腫瘍に関連した目立った体重の変化は見受けられませんでした。原発腫瘍の増殖により動物が安楽死処分される際、肺小結節が見られました。増殖速度からすると、抗腫瘍反応を評価するための4週間の治療期間が可能になりました。

図表1 : メスVB/NJマウスにおけるMTV-PyMT腫瘍増殖キネティクスおよび体重の変化

図表1 : メスVB/NJマウスにおけるMTV-PyMT腫瘍増殖キネティクスおよび体重の変化

PyMT腫瘍の免疫プロフィール

The baseline tumor immune composition was analyzed by flow cytometry and is shown in Figure 2. The lymphoid population has an equal distribution of CD8+ and CD4+ T cells. NK細胞の割合が大きく、B細胞とNKT細胞は少数存在しています。腫瘍には骨髄細胞の大きい個体群があり、その大部分を占めているのはG-MDSCとM1-TAMです。 CD8+T細胞とNK細胞の浸潤はPyMTモデルが免疫調整剤に対応する可能性があるという論理を支持しています。しかし、骨髄性抑制細胞は腫瘍の微小環境にも多数存在しています。そこで当社はPyMTモデルが免疫抑制性の「冷たい」腫瘍と免疫応答性の「暖かい」腫瘍のどちらに則しているかを測定するため、免疫調整剤に対する反応を調べました。

図表2 : PyMT腫瘍浸潤の免疫プロフィール

図表2 : PyMT腫瘍浸潤の免疫プロフィール

チェックポイント阻害と焦点放射線治療に対する反応

免疫調整剤に対する抗腫瘍反応を評価するため、同所性PyMT腫瘍を有するマウスにチェックポイント阻害抗体(抗mPD-1、 抗mPD-L1、および抗mCTLA-4)と焦点放射線治療を施しました。 単剤のチェックポイント阻害剤で治療を施した時の反応は微小で、腫瘍増殖遅延は3日から6でした。また腫瘍退縮は見られませんでした(図表3)。同所性PyMT腫瘍はチェックポイント阻害剤による治療よりもわずかに敏感で、併用治療が利点を追加できる機会があることを明確に示しています。さらに、このモデルがどちらかというと「冷たい」腫瘍プロフィールに則っていることを、データは示唆しています。

図表3:チェックポイント阻害剤に対するPyMT反応

図表3:チェックポイント阻害剤に対するPyMT反応

チェックポイント阻害の他に、焦点ビーム放射線は免疫抑制的な腫瘍の微小環境を調整するアプローチとして有用だと考えられています。さらに言えば、放射線治療は乳癌の治療法として一般的なものです。 Labcorp utilizes the Small Animal Radiation Research Platform (SARRP; Xstrahl) to provide focal radiation therapy to mice in a manner consistent with radiation treatment in patients. このモデルにおいて当社は単回の焦点放射線照射量を 5, 10, 20Gyに設定して行った結果、いずれも忍容性が優良で非常に効果的であることが判明しました。20と10Gyの両方の照射レベルで強力な抗腫瘍反応が発生し、それぞれ全体の100%と38%の割合で完全奏効が見られました(図表4)。このデータに基づき、併用研究には5Gyの焦点放射線の単回照射が推奨されます。

図表4:焦点放射線に対するPyMT反応

図表4:焦点放射線に対するPyMT反応

概要

移植可能なPyMTは、乳癌を標的にした治療薬の評価に非常に有用なモデルです。このモデルは、リサーチ コミュニティーに臨床疾患の様々な側面と複雑さを模倣したモデルを利用する能力を提供します。近年、乳癌の臨床的アプローチの多くは免疫療法と放射線療法の両方、またはどちらかを現行の治験に導入するものです。ここで概説しているデータは、PyMTモデルがチェックポイント阻害剤または低照射量の焦点ビーム放射線との併用研究に適していることを示唆しています。 Contact Labcorp to learn more about our transplantable PyMT model or other breast cancer models that we offer.


参照

1American Cancer Society. Breast Cancer Facts & Figures 2017-2018. Atlanta: American Cancer Society, Inc. 2017.
 
2American Journal of Pathology, Vol. 163, No. 5, November 2003. doi: 10.1016/S0002-9440(10)63568-7.

注:すべての動物管理および使用は、AAALAC 認定を取得した施設にて IACUC 手順の審査および承認を経て動物倫理規制に従い行われました。

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