フローサイトメトリーによって前臨床 CAR T 細胞の持続性を判定

Author: Mark J Cameron, Director of Scientific Development 
Date: November 2020

前臨床研究および開発において、CAR(キメラ抗原受容体)T 細胞治療は一般的にマウスを被験体に用いて研究されています。研究用の免疫不全マウスはヒトに起源を有する腫瘍を持ち、その体内に同種異系のヒト CAR T 細胞を投与します。その養子移植された細胞は、人工キメラ抗原受容体の働きによって、腫瘍細胞の表面抗原(CD19 など)に結合します。

遺伝子改変T 細胞が腫瘍細胞と結合した結果、T 細胞は活性化され、MHC 非拘束的に腫瘍細胞を殺します。  Mice in preclinical research studies are followed for a number of predefined parameters, evaluating tumor growth and burden to determine the efficacy of the CAR T cells (Learn more about how efficacy can be determined by bioluminescence imaging (BLI)

CAR T 細胞の抗腫瘍反応の成否を分ける主な要因は、宿主動物に注入された CAR T 細胞がどれだけ長く存在していられるか(生存持続性)です。 Despite full functionality, it has been shown that poor persistence of CAR T cells can limit an effective antitumor response.1  In the clinical setting, long-term remission in patients with hematological malignancies is associated with sustained persistence of CAR T cells. Co-stimulatory signaling is thought to influence T cell expansion and persistence. Preclinical studies investigating the efficacy of CAR constructs that are engineered to include the 4-1BB co-stimulator domain have been associated with long CAR T cell persistence, a slower and sustained effector function, and a higher proportion of memory T cells.3 Assessing CAR T persistence in preclinical studies have  implications in determining clinical success. 

このテクノロジースポットライトでは、前臨床フェーズにおけるフローサイトメトリーを使用した CAR T 細胞の生存持続性測定について解説します。

マウスモデルによる CAR T 細胞候補の評価​​​​​​​

2017年9月、米国食品医薬品局は最初の CAR T 細胞療法薬を承認しました。Novartis 社が販売する「キムリア」です。キムリアはチサゲンレクロイセルという名称でも知られ、B 細胞急性リンパ性白血病の標準治療に反応しなくなった小児および若年成人向けの薬剤として承認されています。キムリアは、ペンシルベニア大学の Carl June 博士が NSG TM マウスを使用して開発しました。

NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ マウスは、NOD scid gamma(NSG™)というブランド名で広く知られており、Prkdc 遺伝子も X-linked Il2rg 遺伝子も発現しません。scid(重症複合免疫不全症)の変異は DNA 修復複合体タンパク質 Prkdc 内にあり、マウスの B 細胞と T 細胞を欠損させています。またこのマウスは、補体もナチュラルキラー(NK)細胞も持たず、サイトカインシグナルの伝達経路は不足状態にあります。こうした欠陥要素がマウスを理想的なものにしており、CAR T 細胞などのヒト免疫細胞が非常に生着しやすい特性を生み出しています。さまざまなヒト腫瘍を生着させることから、このマウスは、CAR T 細胞前臨床研究のゴールドスタンダードとなっています。

当社の前臨床オンコロジー部門では、CAR T 細胞療法やその他の養子細胞移植の研究を用途とする市販のマウス細胞株(NSGTMマウスを含む)をすべて取り扱っています。特定の条件下であれば、特殊なマウスを受け入れることも可能です。

前臨床オンコロジーサービスの PersistenceTTM パネルを使用すれば、5uL という微量の全血で CAR T 細胞の長期的生存持続性のデータを生成することができます。形式は細胞の絶対数を測定する溶解 / 無洗浄のアッセイです。パネルは柔軟性に優れ、FITC、PE、APC 経路に特定の抗 CAR プローブを加えることができるのがメリットです。私たちは、Jackson Laboratory(米国メイン州バーハーバー)の NSG マウスに2x107 のヒト PBMC を投与し、7 日後、 14 日後、21 日後に全血を採取して PersistenceTTM パネルの評価を行いました。​​​​​​​​​​​​​​

表 1 の一覧は PersistenceTTM パネルで使用した試薬で、図 1 はゲーティング戦略の詳細を示しています。

抗体/色素

説明

mCD45

マウス全造血細胞

hCD45

ヒト全造血細胞

hCD3

ヒト汎 T 細胞マーカー

hCD4

ヒト CD4+ T 細胞マーカー

hCD8

ヒト CD8+ T 細胞マーカー

カウンティングビーズ

絶対数の提供

死細胞検出試薬

死細胞の除外

オプション:CAR に特化したもの

FITC、PE、APC

表 1:PersistenceTTM パネルの抗体とその使用目的。

図 1:PersistenceTTM パネルによるヒト T 細胞の分析。ゲーティング戦略は二重排除(A)から始まり、ビーズの蛍光とカウンティングを組み合わせたもの(B)へと移る。次の破片は除外され(C)、マウスの細胞は、抗マウス CD45 を使用しているヒト細胞と抗ヒト CD45 を持つものとが区別されている(D)。​​​​​​​​​​​​​​ さらに、ヒト T細胞は抗ヒト CD3 ゲーティングによって単離され(E)、最後にヒト CD8 + と CD4 + の T 細胞数が決定した(F)。

図 1:PersistenceTTM パネルによるヒト T 細胞の分析。ゲーティング戦略は二重排除(A)から始まり、ビーズの蛍光とカウンティングを組み合わせたもの(B)へと移る。次の破片は除外され(C)、マウスの細胞は、抗マウス CD45 を使用しているヒト細胞と抗ヒト CD45 を持つものとが区別されている(D)。​​​​​​​​​​​​​​ さらに、ヒト T細胞は抗ヒト CD3 ゲーティングによって単離され(E)、最後にヒト CD8 + と CD4 + の T 細胞数が決定した(F)。

 

PersistenceTTM パネルを用いた、CAR T 細胞の長期的免疫表現型の特性評価

臨床オンコロジー領域では、CAR T 細胞の増殖と生存持続性が、患者様の反応と寛解達成の可否を左右します4。したがって、CAR T 細胞数を追跡するための信頼できる方法を確立することは特に重要で、このことは CAR T 細胞療法の効果を予測するためだけでなく、前臨床での安全性評価の観点においても当てはまります。 Serious side effects of clinical CAR T cell therapy are noted, one of the most severe being cytokine release syndrome (CRS) and is associated with CAR T cell expansion in vivo.5

The PersistenceTTM Panel is directly applicable to the evaluation of human CAR T cell numbers in samples taken from mice over time. 必要な全血量が少ないため、1 匹のマウスからサンプルを複数回採取するか、マウスのコホートを使用すれば、研究の目標が達成するわけです。また、NSG マウス使用して長期的な研究を行い、徹底したCAR T 細胞生存持続性評価を行うことも可能です。図 2は、PersistenceTTM パネルを使用して NSG マウスのヒト T 細胞を経時的に測定したときのものです。

図 2. マウスのヒト T 細胞生存持続性を 21日間かけて測定した結果。
図 2. マウスのヒト T 細胞生存持続性を 21日間かけて測定した結果。

 

CAR T 細胞の生存持続性の向上

In vivo CAR T 細胞の生存持続性は、CAR T 細胞療法の長期的な臨床効果を知るための代理マーカーです。研究によると、CD28 共刺激ドメインを持つ特定の CAR T 細胞は T 細胞疲弊関連遺伝子の発現量がより多く、一方で同じ抗原特異性を持つ 4-1BB(TNFSF9)共刺激ドメインは、疲弊性の表現型が減少することが分かっています。このことは、再発性または難治性の急性リンパ性白血病の患者様の臨床試験において、CD28 ドメインを発現する CAR T 細胞の生存期間が最長 3 か月、4-1BB ドメインを発現する CAR T 細胞は生存期間最長 5 年、さらに評価可能な症例のほとんどで 6 か月以上という報告の理由が説明がつくかもしれません6

CAR T 細胞の各世代

CAR T 細胞は、キメラ抗原受容体の改良を通して進化し続けています。すべての CAR T 細胞は scFv(一本鎖フラグメント変数)を持っています。scFv は、重鎖(VH)ドメインの可変領域と軽鎖(VL)ドメインの可変領域の組み合わせです。scFvそのものは免疫グロブリンの VH と VL による融合タンパク質で、10 個 〜 25 個のアミノ酸から成る短いリンカーペプチドと結合しています。

まず、第 1 世代の CAR には、細胞外結合ドメイン、ヒンジ領域、膜貫通ドメインのほか、ひとつ以上の細胞内シグナル伝達ドメインがあります。すべての CAR T 細胞にあるのが、細胞内シグナル伝達のための CD3ζ 鎖ドメインで、T 細胞活性化シグナルを伝達する主要な物質です。その後、共刺激ドメイン(CD28 または 4-1BB)が追加されて CAR の第 2 世代が定義されました。その目的は T 細胞の増殖、サイトカイン分泌、In vivo の生存持続性を向上させることでした。

第 3 世代の CAR は第 2 世代と比べてエフェクター機能が向上したうえ、In vivo での生存期間が長くなったことが前臨床データで示されています。第 3 世代の CAR には、複数の共刺激ドメイン(CD28-41BB または CD28-OX40)があります。そして、時に「Armored CAR」や「TRUCK(CAR T cells Redirected for Universal Cytokine  Killing)」といった名称で呼ばれることのある第 4 世代。第 4 世代の CAR T 細胞には、T 細胞の増殖性や、抗腫瘍活性、生存持続性を高める因子が含まれていることがあります7

Armored CAR と TRUCK のどちらでも、PersistenceTTM パネルは前臨床研究において、In vivo CAR T 細胞の生存持続性を短期または長期にわたってモニタリングできる優れたツールとなります。

要旨

CAR T 生存持続性の測定は、PersistenceT TM パネルを使用すれば簡単です。当社のフローサイトメトリーパネルは、少量の血液で CAR T 細胞の生存持続性を長期的に測定できるようになっています。表 2 は当社 HumanCompT TM パネルの例で、前臨床 CAR T 研究に他の適格なパネルを加えるとフローサイトメトリーの包括的なデータセットを生成できることがよく分かります。

 

抗体/色素

説明

hCD45

ヒト全造血細胞

hCD3

ヒト汎 T 細胞マーカー

hCD4

ヒト CD4+ T 細胞マーカー

hCD8

ヒト CD8+ T 細胞マーカー

hCD25

ヒト制御性 T 細胞マーカー

hFoxP3

ヒト制御性 T 細胞マーカー

hPD-1

ヒト T 細胞抑制シグナル伝達タンパク質

hCD69

活性化マーカー

Ki-67

増殖マーカー

死細胞検出試薬

死細胞の除外

表 2. Human CompTTM 白血球パネルの各マーカー。

To learn more about how the PersistenceTTM Panel, or one of our other flow cytometry panels, can be incorporated into your preclinical oncology research and to learn more about our extensive flow cytometry program contact the scientists.


参照

1Song DG, Ye Q, Carpenito C, Poussin M, Wang LP, Ji C, Figini M, June CH, Coukos G, Powell DJ Jr.  In vivo persistence, tumor localization, and antitumor activity of CAR-engineered T cells is enhanced by costimulatory signaling through CD137 (4-1BB).

Cancer Res. 2011年7月 1;71(13):4617-27.

2Maude SL, Frey N, Shaw PA, Aplenc R, Barrett DM, Bunin NJ, et al. Chimeric antigen receptor T cells for sustained remissions in leukemia(白血病の持続的寛解を可能にするキメラ抗原受容体 T 細胞). N Engl J Med. 2014;371(16):1507–17. 

3Long AH, Haso WM, Shern JF, Wanhainen KM, Murgai M, Ingaramo M, et al. 4-1BB costimulation ameliorates T cell exhaustion induced by tonic signaling of chimeric antigen receptors(4-1BB 共刺激は、キメラ抗原受容体の持続性シグナルが誘発した T 細胞の疲弊を改善する) Nat Med. 2015;21:581–90.

4Porter DL, Hwang WT, Frey NV, Lacey SF, Shaw PA, Loren AW, et al. Chimeric antigen receptor T cells persist and induce sustained remissions in relapsed refractory chronic lymphocytic leukemia(再発難治性慢性リンパ性白血病において、キメラ抗原受容体 T 細胞は生存を続け、持続的な寛解を誘導する) Sci Transl Med. 2015;7(303):303ra139. 

5Santomasso B, Bachier C, Westin J, Rezvani K, Shpall EJ. The Other Side of CAR T-Cell Therapy: Cytokine Release Syndrome, Neurologic Toxicity, and Financial Burden(CAR T 細胞療法の裏側にあるもの:サイトカイン放出症候群、神経毒性、経済的負担)

Am Soc Clin Oncol Educ Book. 2019年1月;39:433-444.

6Maus MV and June CH.  Making Better Chimeric Antigen Receptors for Adoptive T-cell Therapy. Clin Cancer Res. 2016年4月 15; 22(8): 1875-1884.

7Chmielewski M, Abken H. TRUCKs: the fourth generation of CARs(TRUCK:CAR 第 4世代) Expert Opin Biol Ther. 2015;15(8):1145-54. 

 
注:すべての動物管理および使用は、AAALAC 認定を取得した施設にて IACUC 手順の審査および承認を経て動物倫理規制に従い行われました。

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